さんぽ日和

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夏の雨

ベランダに出て本を読んでいた。

ベランダで本を読むのは初めてだ。外は暑いし考えただけでも億劫だった。それなのに今日ベランダに出てみたのは、ひとつ、午前に買い出しに行くため外へ出た時、なんでもないいつもの景色が夏の光に輝いて見え、お盆でもあるからかしらないが、どことなく夏休みの雰囲気が漂っておりなんだか外へ出たい気分になったのだ。家の中はエアコンが効いているが、夏のこもった暑さを体に感じるのも悪くないな。そう思って私は午後から思い切って小さなベランダに折りたたみ椅子を広げてそこで読書をすることにした。ただのガラス一枚で仕切られているにもか変わらず、部屋の中と外では全く気温も季節も異なっていた。一歩外へ、それもベランダへでただけでもう十分夏の熱気に覆われたた。家の中に季節はなく、なんだか無機質な人工物に感じた。私は折り畳み椅子の肘掛けについた両方のポケットにそれぞれスマホと団扇、水の入ったコップをいれて、読書に耽った。谷崎潤一郎春琴抄である。大阪の真夏に大阪が舞台の純文学を読むのは中々粋なことと思う。時折顔を上げて雲を眺めたり、空想に耽ったりした。すぐそばに室外機があり、そこから込み上げる熱気のせいでうちわであおいでも涼しくはならなかった。だけどそもそも私はサウナが好きなのと、性格的にも変なところで我慢強いので暑さをなんとか快感へ持っていこうと努めた。

しばらくすると青空に黒い大きな雲が浮かんでいるなと思いきや、雨が降り出した。はじめ、リンリンと鈴のような音がした。雨はやがてカーテンのように宙で波打ちながら横殴りにふりだした。先程まで街を覆っていた青空はうそみたいに灰色の空に変わった。まるで冬の空みたいだ。私は立ち上がって、うちわをパタパタ仰ぎながら雨が降るのを眺めた。ふと、窓を振り返るとカーテン奥に旦那がPCに向かって作業している姿がみえた。旦那は雨が降っているのなんて気づいてない様子だった。窓一枚しか仕切られてないのになんだか、違う世界にいるような悲しいまではいかないが孤独な気持ちがした。向かいのマンションは灰色の霧に覆われたみたいに曇った。雷がバリバリと音を立ててなった。自分のところへ落ちてくるんじゃないか、なんて思ったりして、もうこんな歳なのに少し怖かった。雷に打たれて死ぬってどんな感じなんだろう。私はまだ高校生だった頃に、受験対策の時たまたま国語のテストで読んだ、誰かの作品を思い出した。釣りに行ったおじいちゃんが帰りに雷に打たれて死ぬのだ。私は、田んぼの畦道を歩くそのおじいちゃんの後ろ姿を思い出した。それは私が実際見たわけでもない、文で読んで想像した姿でしかないのにこうして私の頭の中に浮かんでくるのは不思議だなと思った。気づけば空は元の青空に戻っていた。ベランダから顔を出して虹を探してみたがこちらからでは発見できなかった。雨はまだ降っており、お腹の音みたいな雷が控えめに鳴っているのが聞こえた。